「WebRTCってどんな技術なの?」
「WebRTCの仕組みは?」
近年、リアルタイムコミュニケーションが重要視される中、注目を浴びるのがWebRTCという技術ですが、具体的にどのような技術なのか理解している方も少ないと思います。
そこではこの記事では、WebRTCとは何かや仕組み、メリット・デメリットなどについて解説します。WebRTCの導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。
1. WebRTCとは?仕組みも解説
WebRTC(Web Real-Time Communication)は、ウェブブラウザ間でリアルタイムの音声、ビデオ、およびデータ通信を実現するための技術です。WebRTCは、P2P(Peer To Peer)通信を基盤としており、データの転送速度が速く、遅延が少ないです。また、サーバーに負荷が集中することもなく、通信が不安定になりにくいのが特徴です。
WebRTCはGoogleによって開発されたオープンソースで、専用のプラグインやアドオンを必要とせず、標準のWeb APIを使用してリアルタイム通信を実現することができるため、多くのアプリケーションで広く利用されています。
(1)WebRTCの構成要素
WebRTCの技術スタックは、複数のプロトコルとAPIで構成されています。これにより、ブラウザ間でのシームレスな通信が可能になります。以下は、WebRTCの主な構成要素です。
構成要素 | 説明 |
SDP (Session Description Protocol) | SDPは、通信の初期設定を行うためのプロトコルです。SDPを使用して、通信相手と共有する音声やビデオのコーデック、ビットレート、解像度などの情報を記述します。 |
ICE (Interactive Connectivity Establishment) | ICEは、NAT(Network Address Translation)やファイアウォールを越えてP2P(Peer-to-Peer)通信を確立するためのフレームワークです。 |
STUN (Session Traversal Utilities for NAT) | STUNサーバーは、クライアントが自分のパブリックIPアドレスとポートを取得するのに使用されます。これにより、NAT越えが必要な場合でも、P2P通信が可能になります。 |
TURN (Traversal Using Relays around NAT) | TURNサーバーは、STUNを使用しても直接通信が確立できない場合に、データを中継する役割を担います。これにより、セキュリティの厳しいネットワーク環境でも通信が可能になります。 |
シグナリング | シグナリングは、通信を開始する前に必要な情報交換を行うプロセスです。WebRTC自体にはシグナリングプロトコルが含まれていないため、開発者は任意のプロトコル(WebSocket、HTTP、SIPなど)を使用してSDPやICE候補を交換します。 |
2. WebRTCのメリット
WebRTCを利用することで、得られるのは次のようなメリットです。
- 映像や音声データを遅延なく伝送できる
- パソコンや、スマートフォンなどのモバイルデバイスで簡単に活用できる
- アプリケーションのインストールが不要
- オープンなテクノロジーであるため、広く汎用的に利用できる
それぞれのメリットの詳細を解説します。
(1)映像や音声データを遅延なく伝送できる
リアルタイム通信ができるWebRTCでは、映像や音声データを遅延なく伝送できます。一般的なインターネット通信ではTCPプロトコルを使用しており、相手に通信が届いたかどうかを確認してデータ通信を行います。そのため、信頼性は高いですが、通信の開始と終了の処理に時間が掛かります。
一方、WebRTCでは通信相手に通信が届いたかどうかを確認しないUDPプロトコルを採用しているため、即座にデータの送信が可能になります。相手が確実に受信できているとは限りませんが、、素早く遅延なく映像や音声データを伝送できるようになっています。
(2)パソコンや、スマートフォンなどのモバイルデバイスで簡単に活用できる
WebRTCは、クロスプラットフォーム対応の技術であり、デスクトップやモバイルデバイスを問わず、あらゆるデバイスで利用することができます。これにより、ユーザーは特定のデバイスに依存することなく、WebRTCを活用できます。
また、WebRTCのAPIはシンプルで使いやすく、JavaScriptやHTML5を使用して簡単にアプリケーションに統合できます。開発者は迅速にリアルタイム通信機能を実装でき、デバイスの種類に関係なく、広範なユーザーベースに対応することができます。
(3)アプリケーションのインストールが不要
WebRTCは、Google Chrome、Mozilla Firefox、Microsoft Edge、Safariなどの主要なウェブブラウザでサポートされています。ユーザーは、専用アプリをインストールすることなく、ウェブブラウザを通じてWebRTCの機能を利用できるため、初期設定やインストールの手間が省け、すぐに使用を開始できます。
また、追加のアプリケーションをインストールしないことで、システムリソースの消費を抑えられます。特に、ストレージ容量やメモリの制約があるデバイスでは、ブラウザだけで動作するため、リソースを効率的に活用できます。
(4)オープンなテクノロジーであるため、コストを削減できる
WebRTCは特定のベンダーや企業の制限を受けないオープンなテクノロジーです。そのため、利用に当たって、ライセンス料などを支払う必要はありません。中小企業やスタートアップにとって、このコスト削減は大きな利点となります。
また、既存のインフラストラクチャを活用して迅速に導入できるため、初期投資を抑えつつ高機能なリアルタイム通信を実現できます。
3. WebRTCの技術的な課題
非常に優れたリアルタイム通信技術がWebRTC技術ですが、技術的な課題がないわけではありません。WebRTCには以下のような技術的な課題が考えられます。
- ブラウザ間の互換性
- 通信における不確実性
- 帯域幅の制約
順に解説します。
(1)ブラウザ間の互換性
WebRTCの最大の利点は、ブラウザ上での直接通信が可能であることです。しかし、一部ではブラウザ間の互換性に関する課題が残っています。例えば、各ブラウザのWebRTC実装には微妙な違いがあり、それが原因で互換性の問題が生じることがあります。特に新しい機能や仕様の追加に伴って、互換性の調整が必要となることがあります。
(2)通信における不確実性
WebRTCのSTUNはUDPというネットワーク層でパケットの送受信を行うためのプロトコルが使用されています。UDPは相手にデータが届いているかの確認を行わず、一方的にデータを送ることで速度の速い通信を実現していますが、信頼性が低いというデメリットがあります。
UDPは失われたパケットを再送する仕組みがないため、ネットワークの混雑や障害があると、データの一部が完全に失われてしまう可能性があります。TCPではこのような場合に再送を行い、データの完全性を確保しますが、UDPではこれが行われません。
(3)帯域幅の制約
リアルタイム通信では、帯域幅の制約が課題となります。特にビデオ通話やストリーミングなど、大量のデータをリアルタイムで送受信する場合には、帯域幅が不足することがあります。これにより、通信の品質が低下し、映像や音声の遅延や画質の劣化が生じる可能性があります。
帯域幅の制約に対処するために、WebRTCでは圧縮技術や効率的なデータ転送の方法が活用されています。例えば、ビデオや音声データを効率的に圧縮し、最適なビットレートで送信することで、帯域幅の制約に柔軟に対応します。また、通信品質の優先度設定や帯域幅制御などの機能を活用し、リアルタイム通信の品質を最適化する取り組みも行われています。
4. WebRTCの活用シーン
それでは、WebRTCは具体的にどのようなシーンで活用されるのでしょうか。ここでは、WebRTCの以下の活用シーンについて解説します。
- ビデオ通話および音声通話
- ライブストリーミング
- オンラインゲーム
- IoT(Internet of Things)
順に解説します。
(1)ビデオ通話および音声通話
WebRTCを使ったビデオ通話および音声通話アプリケーションが広く利用されており、具体的にはGoogle Meet、Microsoft Teams、Zoomなどがあります。
ビデオ通話や音声通話では遅延が大きな問題になりますが、WebRTCではすでに説明したUDPプロトコルを採用し、素早く映像や音声データを伝送することができます。そのため、リアルタイム性を維持したままビデオ通話や音声通話ができるようになっています。
(2)ライブストリーミング
WebRTCは、ライブストリーミングの分野でも活用されており、低遅延でリアルタイムの映像配信が求められる場面で、WebRTCの技術が威力を発揮します。例えば、オンラインイベント、ライブコンサート、スポーツ中継などです。
一部のストリーミングワークフローでは、ライブストリーミングカメラやエンコーダー、およびメディアサーバーなどが必要になり、準備も大変ですが、WebRTCなら接続された Webカメラとブラウザだけでも準備が完了します。
しかし、WebRTCは多人数での接続の実現が弱点とされています。P2P通信のみで多人数での接続を実現すると、端末の能力や帯域幅に限界が来てしまいます。
そこでWebRTCサイマルキャストを利用することで、様々な帯域幅に対応したビットレートオプションが用意され、誰もが安定したストリームを受信できるようにします。これにより、オンラインイベントやライブコンサートなどの多人数が接続するライブストリーミングで、リアルタイム性のあるWebRTCを機能させることができます。
(3)オンラインゲーム
WebRTCはオンラインゲームでも広く使用されています。オンラインゲームで大事なのは遅延のない通信であり、遅延が生じれば、オンラインゲームの醍醐味を味わえなくなるでしょう。
オンラインゲームでは、通信量が少ないときはP2P(直接的な端末間通信)を利用します。しかし、P2P通信は通信を行う相手と直接接続するため、人数が増えて来ると、その分だけ接続する先が増えて、負荷が増えていくのが欠点になります。
そのため、ゲーム参加者が多くなり、通信量が増えるときは、SFUやMCUといった他拠点の同時接続を実現させる技術を使用して、通信効率を上げます。それによって、快適にオンラインゲームを楽しむことができます。
(4)IoT(Internet of Things)
IoTとはモノがインターネットを介して通信することです。これにより、物理的なデバイスがネットワークに接続され、リアルタイムで情報を収集・共有し、自動化や遠隔制御などの機能が実現されます。このIoTの分野でもWebRTCを利用することが増えてきました。
例えば、スマートホームデバイス間の連携や、リモートモニタリングシステムなどがあり、WebRTCを利用することで、これらのデバイス間でリアルタイムな情報のやり取りが可能となります。具体的には、センサーデバイスが情報を収集し、そのデータをWebRTCを介してクラウド上のサーバーに送信し、他のデバイスやユーザー端末にリアルタイムで配信することができます。そのため、ユーザーはスマートホーム全体を一元管理し、効率的なコントロールを実現できます。
WebRTCの導入ならソフトフロントジャパンへ
今回は、WebRTCの特徴や仕組み、メリット、技術的な課題などについての解説をしました。WebRTCは、リアルタイム通信の分野で革新的な技術として広く利用されています。オープンスタンダードであり、主要なブラウザでサポートされているため、幅広い用途での利用が可能です。高品質な音声・ビデオ通信を実現し、シンプルな実装が可能な点で、開発者とユーザーの双方にとって大きな利点があります。
ソフトフロントジャパンでは、WebRTCとSIP VoIPサービスの連携などの特殊なご相談にも対応しています。実装・相互接続をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。